大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成9年(ワ)27500号 判決 1999年6月24日

原告

日産火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

佐藤隆太郎

右訴訟代理人弁護士

小野寺富男

被告

ローヤル・エキスチエンジ・アツシユアランス

右日本における代表者

エドワード・チャールズ・フランシス

右訴訟代理人弁護士

速水幹由

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、金一九四七万七五〇〇円及びこれに対する平成九年一月一八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、いわゆる保証証券契約における連帯保証人の一人である原告が、共に保証をした被告との内部的負担割合は平等であるとして、自己の負担部分を超えて保証債務の履行をした部分につき、被告に対し、求償金の支払を請求した事案である。被告は、原告との負担割合は保証限度額(予備的に保証料額)の割合により按分すべきでその比率は原告三対被告一であるから、原告は負担部分を超えて保証債務を履行したものではないとして争っている。

一  前提事実(証拠を掲げない事実は、当事者間に争いがない。)

1  原告及び被告は、保険業及びその関連業務等を主たる事業目的とする会社である。

2  原告は、タイシンインターナショナル株式会社(以下「タイシン社」という。)との間で、平成八年三月二九日、同社のタイ・エアウエーズ・インターナショナル・パブリック・カンパニー・リミテッド(以下「タイ航空」という。)に対するチケット取扱業務に関する債務につき債務者と連帯して保証する趣旨の、概要以下のとおりの保証証券を発行するとの契約(以下「保証証券契約」という。)を締結し、これに基づきその旨の保証証券を発行し、タイシン社に対してこれを交付した。

債務者 タイシン社

債権者 タイ航空

保証限度額 合計一億五〇〇〇万円

保証期間 平成八年四月一日から平成九年三月三一日まで

3  被告は、タイシン社との間で、平成八年六月二八日、同社のタイ航空に対するチケット取扱業務に関する債務につき債務者と連帯して保証する趣旨の、概要以下のとおりの保証証券契約を締結し、これに基づきその旨の保証証券を発行し、タイシン社に対してこれを交付した。

債務者 タイシン社

債権者 タイ航空

保証限度額 合計五〇〇〇万円

保証期間 平成八年七月一日から平成九年六月三〇日まで

なお、保証証券は、保証人となるべき損害保険会社が、債務者の債権者に対する主債務の履行の担保として債権者に対して提出する証券であって、これが発行、交付されることによって債権者と損害保険会社との間で連帯保証契約が締結されることとなり、法律的にはこの保証は民法上の保証と解される。そうすると、原告と被告が、前記のとおり、それぞれタイシン社に対し保証証券を発行、交付したことにより、タイ航空は原告と被告に合わせて二億円の限度で保証債務の履行を求めることができるものである。(甲一、弁論の全趣旨)

4  タイシン社は、平成八年九月三〇日、債権者であるタイ航空に対する債務の支払を怠り、期限の利益を喪失したため、タイ航空は、原告及び被告に対し、タイシン社の最終債務残額一億二二〇八万九九九九円の支払を請求した。

5  原告は、タイ航空の対し、右保証証券契約に基づく保証債務の履行として、平成八年一一月二〇日に七二〇八万九九九九円を支払った。また、被告も、タイ航空に対し、同年一二月三日、右保証証券契約に基づく保証債務の履行として、三〇五二万二五〇〇円を支払った。(甲三)

6  タイ航空は、被告が支払った右金員のうち、一〇万八八〇四円を平成八年一一月二一日から同年一二月三日までの間の遅延損害金に充当し、残金三〇四一万三六九六円を元本に充当する旨主張し、被告に対し、残元金二〇五〇万一〇九六円及びこれに対する同年一二月四日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金の支払を請求するとともに、原告に対しても右金員の支払を請求した。

7  被告は、タイ航空に対し、右保証債務に基づく平成八年一一月二〇日から同年一二月三日までの年六分の割合による遅延損害金として、同年一二月二五日に七万〇二四四円を、平成九年一月一七日に二三万三八八五円をそれぞれ支払った。(乙一、乙二)

8  原告は、タイ航空に対し、右保証証券に基づく保証債務の履行として、平成八年一二月三〇日、一九五八万六三〇四円を支払い、あわせて同社との間で、同社は原告に対して右保証債務に関してその余の請求をしないとの合意をした。(甲三)

二  争点及び争点に関する当事者の主張

本件の争点は、連帯保証人である原被告間の負担割合を決める基準をどのように解するかである。

(原告の主張)

1 保証証券業務の法的性質は、民法上の保証と同性質のものであると解されるが、原告と被告との間には、内部負担割合につき特段の合意等があったわけではないのであるから、民法四五六条により原告と被告の負担割合は平等である。

2(一) 被告は、連帯債務者相互間の内部負担割合に関する議論が連帯保証人相互間の内部負担割合についても妥当すると主張する。しかし、そもそも、連帯債務の場合、各債務者の債務は、給付が可分であるにもかかわらず、特約等によって全部の給付をなすべきとされるに過ぎないのであるから、内部的には本来の各自の債務額に応じた負担をなすべきことは当然のことであり、この点で保証の場合とは決定的に事情が異なる。したがって、各自が受けた利益の割合を保証人相互間の内部負担割合決定の基準として用いるのは妥当でない。

(二) 被告は、内部負担割合は各自の受けた利益の割合によるとの基準が保証人間に適用されることを前提として、本件の場合、原被告の受けた利益の割合は、約定の保証限度額によって決定されると主張する。しかし、なぜリスクの範囲を画する保証限度額の割合が受益の割合といえるのか疑問である。この点につき被告は、「『各自が受けた利益』の意味は、厳密な収益や利潤等の意味では決してなく、連帯債務関係と関連して得られる便益や機会等を含む単なるメリットといった極めて概括的な意味であって、要は『各債務者の負担の割合を定むべき合理的基礎』たり得るかが重要なのである」と主張する。しかし、このような解釈は「受益」という文言の意味をこれまで議論されてきたものから大きく逸脱させたものである。

(三) 被告は、保証限度額は物上保証人の提供した担保目的物の価額と経済的に同じ実質を持つから、民法五〇一条四号と比較して、保証限度額を負担割合決定の基準とすることに合理性があると主張する。しかし、同条は保証人と物上保証人とを截然と区別したうえ、後者の場合は担保目的物の価格に応じて負担するものとしているのであり、被告の主張によれば、保証人が保証の限度額を設定した場合には、保証人としてではなく、あたかも物上保証人と同じように処遇されるべきこととなる。これは、明らかに民法の規定を無視した主張である。

(四) 被告は、複数の保険会社が保証人となり共同して保証する場合の保証証券の実務において、各自の分担割合について割合分担方式が採用されていると主張する。しかし、右取扱いは、共同引受けされた保証についての実務処理であり、民法の複数保証人間の負担割合の基準に即していえば、あらかじめ当事者間で分担割合について合意がなされている事案に関するものなのであり、本件のようにそもそもその合意がなかった場合についてのものではないのであるから、被告の主張は失当である。

(五) 被告は、外国、特にアメリカの保証証券制度についても言及しているが、その前提となる「保証」についての法制度自体が各国毎に異なっているし、本件の連帯保証契約によれば、日本法が準拠法として明示されているのであるから、本件につき外国における運用や解釈に従わなければならない必然性はない。

(六) また、被告は、予備的に、保証料を受益の割合とみるべきであると主張する。しかし、保証料率はリスク判断の程度いかんによって決まるわけではなく、その他各種担保条件によっても変動するのであるから保証限度額の割合が受けた利益の割合を示すとの主張は誤りであり、保証料率を基準に内部的負担割合を決めることには合理的理由がない。

(七) 以上のとおり、本件の保証証券契約は、民法上の保証と解されるところ、連帯保証人である原告と被告の内部的負担割合については、特段の合意等の具体的根拠は存しないというべきであるから、平等と解すべきである。

(被告の主張)

1 連帯保証人相互間の求償関係については、連帯債務者間の求償に関する民法四四二条一項が準用される。したがって、連帯債務者間の求償の場合における内部負担割合についての解釈と同様、当事者間に合意がある場合にはその合意によって各自の負担部分が決まり、合意がない場合にはその債務を負担することによって各自が受けた利益の割合によって負担部分が決まるのであり、これらにより定まらないときに限って各自平等の割合で負担するものと解すべきである。そして、右にいう「各自が受けた利益」の意味は、厳密な収益や利潤等の意味では決してなく、連帯債務関係と関連して得られる便益や機会等を含む単なるメリットといった極めて概括的な意味であって、要は「各債務者の負担の割合を定むべき合理的基礎」たり得るかが重要なのである。

これを本件についてみると、以下の理由から、原告と被告が受けた利益の割合は、約定保証限度額の割合に比例すると解するのが相当である。よって、原被告間の負担割合は、約定保証限度額の割合で按分比例される。

(一) 保険会社は、保証証券業務において、その引き受けた責任の大きさ(約定保証金額)に対応するリターン(保証料を含む収益機会)を得ているのであって、引き受けた責任が大きければ得られる利益ないし収益機会も大きいという程度の概略的な比例関係にあることは明らかである。

(二) 約定保証限度額は保証責任の限度を画するものであるから、端的に各自の責任の大きさを示す約定保証金額の割合によって負担割合を決定することは、共同不法行為者間の内部負担割合につき各人の「過失割合」あるいは「当該損害の発生についての各人の寄与度」等によって決定する判例・通説とも符合し、合理的である。

(三) 各保証人が約定した保証限度額は、責任の限度を画するという点において物上保証人の提供した担保目的物の価額と経済的に同じ実質を持つので、原被告間の負担部分を約定保証限度額の割合による按分とすることは、物上保証人相互間につき各担保目的不動産の価額に応じて代位するとした民法五〇一条四号の趣旨との整合性がとれ、合理的である。

(四) 本件のような保証証券契約と損害保険は、法律構成では異なっても、経済的機能は酷似している。商法は、損害保険に関して、同時重複保険の場合は、保険金額が保険価額を超過した場合は各保険者の負担額を各自の保険金額の割合によるものとしている(同法六三二条一項)。異時重複保険の場合は、前の保険者が負担した不足分を後の保険者が負担するものとしている(同法六三三条)ものの、実際には約款により各保険者がその保険金額ないし責任額の割合に応じて損害を分担している。このような重複保険における規律あるいは運用を共同保証の解釈にあたって斟酌することは、経済的機能の酷似性に鑑み、合理的である。

(五) 損害保険業界では、保証証券導入直後から、複数の保険会社が保証人となり共同して保証する場合の保証証券業務においても、共同保険の内容に沿った処理方法をとることとし、保証金額の支払または主債務の履行は分担割合によって分割された額で行うという方針で検討されていた。すなわち、共同引受方式の場合に関する共同保証約款の検討にあたり、保険会社間の負担割合については、基本的に保証責任の大きさに応じて按分比例するのが合理的であるとし、頭数による平等負担は検討の対象にすらなっていなかった。

(六) アメリカをはじめとする海外においても、別個の保証証書で同一の債務を保証した者が数人あり各自の保証した金額が異なる場合には各保証人の責任額を各保証限度額の割合で按分した額とする扱いが一般的となっている。我が国においても、海外における扱いとできるだけ均衡のとれた処理をするのが望ましいことは自明の理である。

2 仮に、原告と被告が受けた利益の割合は約定保証限度額の割合に比例すると解することができないとしても、保証の対価として保険会社が徴収した保証料の割合で按分比例すると解するべきである。

第三  当裁判所の判断

一  前提事実によれば、原告と被告は、主債務者をタイシン社とする保証証券をそれぞれ別個に発行、交付したことにより、原告は保証限度額を一億五〇〇〇万円として、被告は保証限度額を五〇〇〇万円として、それぞれがタイ航空に対するタイシン社の債務の連帯保証人となったところ、債権者であるタイ航空から、タイシン社の最終残債務額一億二二〇八万九九九九円の支払の請求を受けたというのである。原告は、右タイ航空に対する保証債務につき、被告の負担が保証限度額に満つるまでは、内部負担割合は平等であると主張するのに対し、被告は、原被告間の内部負担割合は、保証限度額(予備的に保証料額)により定まると主張しているので検討する。

二 連帯債務者間の内部負担割合については、当事者間に合意があればその合意により決まり、合意がない場合には、債務者がその債務につき実際に利益を受けた割合等連帯債務者間に存する事実により定まり、そのような事実が認められない場合には、各自平等で負担することになると解されている(大審院大正四年四月一九日判決・民録二一輯一一号五二四頁参照)。このような連帯債務者間の内部負担割合に関する解釈は、結局は何が連帯債務者間の内部負担割合を決する合理的な基準といえるかというということに尽きるものであるが、実質的には、連帯債務者相互間の公平を念頭においたものというべきである。そうであるとすれば、連帯債務者間の内部負担割合に関する合意がない場合に、何が右連帯債務者間の負担割合を左右する事実にあたるといえるかは、債務者がその債務につき実際に利益を受けた割合がその一例として挙げられているものの、最終的には、連帯債務者間に存する事実に照らし、何が最も公平かつ簡明で、合理的な指標といえるかという観点から判断するのが相当である。そして、本件のような連帯保証人相互間の内部負担割合についても、一方の債務者が債務の履行に応じた場合における他の債務者に対する求償の際の基準という点では、連帯債務者相互間の内部負担割合の基準と何ら異ならないから、同様に解すべきものである。

三 ところで、私法上何をもって公平と考えるかについてはいくつか手掛りが存する。たとえば、物上保証人間の負担割合は担保目的物の価格の割合によるとされているし(民法五〇一条四号)、また、損害保険において、同時重複保険の場合に保険金額が保険価額を超過したときは負担額は保険金額の割合によるものとされている(商法六三二条一項)。異時重複保険における運用も同様である。これらは、当事者が当初負担あるいは覚悟した危険・損害に応じた責任を負うのが公平という考え方である。他方、連帯債務者間の負担割合を決する基準として債務者が実際に受けた利益を例に掲げる前記解釈態度などは、利益あるところに責任があるとするのが公平という考え方を示すものといえよう。

そこで、右のような例を参酌しつつ、本件のような保証証券契約における連帯保証人相互間において負担割合をどのように解するのが公平かつ簡明で合理的な指標といえるかを検討する。

保証証券契約は、損害保険会社が業務として、主債務者の債務を保険料率の計算と似た手法により計算された保証料を徴収して保証し、主債務者が支払えない場合にはその限度内で保証債務を履行することを基本としている点で、損害保険と似た機能、性質を有していると評価しうる。そして、損害保険の保険金額が保証限度額に対応する。また、保証証券契約において保証限度額が定められ、自己が負担すべき危険に限度が定められていることは、機能面において物上保証人の提供する担保と似ており、この場合、保証証券契約における保証限度額が物上保証人の提供する担保の価格に対応する。このようにみていくと、重複保険における負担額の割合、物上保証人間の弁済額の負担の割合に関する解釈に倣い、保証証券契約における連帯保証人間の負担割合は保証限度の割合によって按分するのがもっとも公平の概念に合致し、かつ簡明というべきである。

このように解することは、一般的には保証限度額が高いほど保証料も多く受領しているという関係にあるから、利益あるところに責任もあるという別の公平感からも合理的であるといえる。

なお、保証証券契約における連帯保証人となることによる利益という面を強調すれば受け取る保証料に応じて負担割合を按分するという考え方(被告の予備的主張)も成り立ちうるが、保証料は負担する危険の大きさのほかさまざまな要素によって決まるものであるから(たとえば、保険会社の企業努力等により、同じ保証限度額でも保証料を他社よりも低額にできるという場合もあるであろう。)、厳密に保証料の割合によって按分するのは公平を失する場合もあり得、また、簡明とはいえないから、この意味では保証限度額を指標とする方がより合理的というべきである。

四  これを本件についてみると、原告の保証限度額は一億五〇〇〇万円、被告の保証限度額は五〇〇〇万円であるから、原告と被告の負担割合は三対一である。そして、原告と被告はタイ航空に対して合計一億二二五〇万二九三二円を支払ったのであるから、原告の負担部分は九一八七万七一九九円、被告の負担部分は三〇六二万五七三三円となるところ、原告は合計九一六七万六三〇三円を支払ったのみであるから、自己の負担部分を超える額を弁済したとはいえないことは明らかである。

第四  結論

以上によれば、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官西岡清一郎 裁判官金子修 裁判官武藤貴明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例